京都地方裁判所 昭和29年(ワ)1288号 判決 1955年2月22日
原告 水戸徹雷
被告 学校法人平安学園
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「被告が昭和二十九年九月三十日原告に対し為した解雇は無効なることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和十五年九月から被告学園(当時は平安中学と称す)に就職し昭和二十五年から昭和二十八年三月までは事務課長、同年四月から昭和二十九年三月までは管理主任の職にあつたものであるが、昭和二十九年四月下旬校務分掌の異動が行われた際原告に対しては職務を与へられず教頭から原告が学園に止まることは原告の不利益であるからと再三退職するよう仄かされたが原告はその意思がないことを発表した。ところが同年六月中旬校長から被告学園理事会の決議により学園経営合理化の為め自発的に退職せられたいと要求せられた。しかしながら被告学園の経営状態は未だ赤字になつたことはなく人員整理を要する段階に至つていないので原告は右要求に応じなかつたところ、被告学園は同年八月下旬に至り右退職要求理由を変更して一、原告の勤務成績が不良であること二、他の職員より原告を退職せしむるよう要求があつたことを理由に学園明朗化の為め止むを得ず退職を求めると更に退職を要求したが原告はかゝるいわれなき理由で退職することはできないと拒絶したところ被告学園は同年九月三十日附を以て原告に解職辞令を交付した。しかし右解雇は敍上理由により理由なき一方的解雇で無効であるからその無效確認を求める為め本訴に及んだ旨陳述し被告の答弁に対し被告は原告が以前より勤務状况が不良であつたと主張するが原告は被告学園に就職以来専心与へられた職務に従事し朝は生徒登校の一時間前には登校し夜間も九時頃より一時間は定期的に学校の内外を巡視して管理に努める等恪勤精励して来た、又被告は原告が昭和二十九年四月以降長期無断欠勤したと主張するがこれは悪意にあらずんば誤解に出でた主張で左様な事実は全然存しない、又被告は近藤理事より温情を以て十数回に亘り辞職勧告をしたが聞入れないので昭和二十九年七月三十一日口頭を以て解職の予告をした旨主張するが右事実は相違している。解職の予告は同年九月十七日里内教頭立会の下に校長より為されたものである。又被告は原告が異議なく解職辞令及び退職金を受領し解職を承諾したと主張するが原告は飽まで退職願の提出を拒み辞令を受取るときもその意思を表示した。辞令を受取つたのは訴訟に必要だからであつて解職を承認したものではない。又退職金は受領を拒んだが十月分より給料を支払はぬと云うので財産も貯蓄もなく、かてゝ加へて病人を抱へている原告としては忽ち生活に窮するので弁護士の意見を聞いた上で一時受取つて当座の生活費に充てる為め止むを得ず受取つたもので決して解職を承認したものではない。本件解職は校長の原告に対する私の感情から出たものである。即ち校長が学園経営につき学園設立の趣旨に反する行為又は道徳に悖る行為をしたので相当批判したところ、原告に対し反感を抱き昭和二十八年には事務課長を免じ学園経営に関する発言権を奪い、翌昭和二十九年には一切の職務を与へず原告が自発的に退職するように仕向け遂には強制的に退職を迫るに至つたものであると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告が昭和十五年九月以来被告学園に勤務していたこと、校長及び教頭より退職を勧告したが応じなかつたこと並に原告主張のような理由で昭和二十九年九月三十日附解職辞令を交付し解雇したことは認めるがその余の原告主張事実は争う、原告は以前より勤務成績が不良であつたが特に昭和二十九年四月以降長期の無断欠勤を為すに至つたので昭和二十九年六月中旬近藤常務理事等より十数回に亘り温情を以て解職勧告をしたが聞入れないので同年七月三十一日同理事より口頭を以て解職の予告を為し同年九月三十日附解職辞令を原告の申出により同年十月一日に交付したところ、原告は何等の異議を止めずしてこれを受取つたのみならず京都府私学恩給財団及び職員共済組合に対する退職手当請求手続書に捺印して被告学園出田経理主任にその手続方を依頼し、更に又同年十月六日被告学園から支給する退職手当をも受取り解職を承諾したものであるから本件は雇傭契約の合意解除があつたものと云うべく原告の本訴請求は理由がないと述べた。(立証省略)
理由
原告が昭和十五年九月以来被告学園に雇はれ事務職員として勤務していたこと並に被告学園が昭和二十九年九月三十日原告を解雇し同日附解職辞令を交付したことは当事者間に争がない。原告は右は理由なき一方的解雇で無效であると主張するに対し被告は合意上の解雇で有效であると主張するので案ずるに証人里内了徹の証言に成立に争のない乙第一乃至第五号証を綜合すると原告は昭和二十七年末迄は事務課長昭和二十九年三月末迄は管理主任の地位にあつたものであるが勤務成績不良の上に他の同僚職員との折合も悪るくこの儘被告学園に止め置くことは面白くないと云うので昭和二十八年十二月頃から校長、教頭、生徒課長、教務課長等被告学園主脳者間において原告に退職を勧告しようと云う議が持上り最初は里内教頭より個人的に退職を勧告したけれども応ずる気配がないので昭和二十九年四月以降は管理主任の職を解き一定の職務を与へず更に同年七月末頃校長近藤亮稚より原告に対し正式に退職勧告をしたが応じないので遂に同年九月三十日附を以て解職辞令を交付し解雇を申渡したこと、原告は不承不承ながら別段異議を止めないで右解職辞令を受取り更に京都府私学恩給財団に対し退職による一時金請求の手続方を被告学園経理主任に依頼した外同年十月六日被告学園より退職金として金十二万四千六百円を任意受領したことを認めることができる。然らば原告は右解職辞令や退職金を受取る際内心においては不満があつたにせよ被告学園に対しては黙示的に解雇を承認したものと認めるの外なく被告が従来退職勧告に応じなかつた事実、解雇辞令を受取つて間もなく本訴を提起した事実、その他証人甲斐庸生、渡辺順子、岸田康司等の証言を以てするも右認定を左右するに足らない、原告は解雇事由に該当する事由がなかつたから解雇は無效であると主張するけれども合意解雇たる以上解雇事由の存否並に当否について判断するまでもなく本件解雇は有效であると云はなければならない。
よつて原告の本訴請求は理由なきものとして棄却すべきものとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の如く判決する。
(裁判官 両垣久晃)